「だから、このシーンはね。△△も怖かっただろうけど、□□の方もいっぱいいっぱいだったんだよ」
 「だったら、ここの□□が座る芝居で、くたっと力が抜ける感じ?」
 「そうそう。ちょっと溜め息まじりでもいい」
 「あとさ、“×××だろ?”って言い方冷たくない? 親友に“×××”なんて言うかな、今の子って?」
 「じゃあ、例えば“○○○〜!”なんかどう?」
 「それそれ! それで伝わるよ!」


 アフレコ台本に書かれた台詞が、赤根監督と音響監督の“ジンさん”こと明田川仁さんのディスカッションによって、生き生きと書きかえられていきます。ここは都内某スタジオの“コンソール”。声優さんが演技する場所を“ブース”といいますが、今回は趣を変えて、音響スタッフの職場である“コンソール”側のドラマをお伝えします。
 コンソールは男の厨房です。とりあえず、見渡すかぎり男性スタッフしかいません。みめ麗しき美人声優たちのひしめくブースは分厚いガラス窓で隔てられ、聞こえてくるのは彼女らの美しい声ばかり(もちろん男性声優も大勢いらっしゃいます……念のため)。

 

 しかし、美しいだけでは演技にならないことを声優さんも音響スタッフもよく分かっています。だから、通しでリハーサルを行ったあと、それぞれの台詞のもっているニュアンス、発音や息つぎのタイミング、また前後のストーリーの繋がりにいたるまで監督と音響監督は額をつき合わせて相談するのです。この男同士のやりとりが、めっぽう面白い。それぞれの人生観がチラリチラリと垣間見えるから。
 「なんかバカっぽいけどさぁ、男ってそういうもんだよね?」、そんな納得の仕方がちょくちょくあるんです。ここに女性の意見が入ってきたら、多分まとまらない。そうして合意に達した意見を携えて、音響監督の“ジンさん”は声優さんたちの待つブースへ説明に向かいます。もう男の子代表って貫禄で。
 作品に年齢性別があるとしたら、『ノエイン』は間違いなく“少年”でしょう?(と思うのですが、どうでしょうか……) その秘密は、実はアフレコの舞台裏にも隠れているんじゃないかな、と思うんです。フリーライターの廣田恵介でした。